OMORI 心のドアを開く物語

蘭たんきっかけでOMORIを知ったんだけども、雰囲気が好みド直球だったので自分でプレイしてみました。これから蘭たんの実況も追います。

プレイしようと思ったものの開始するまで少々足踏みしていた。
それは『うつ病だったり調子が悪い人はやらない方が良い』という文面をよく見たからだ。
鬱病である私は大分戸惑ったけれど、逆にうつ病に向いているゲームなんてないし、自分が辛い時に正反対のキラキラした空間を見るとその輝きと自分との対比に苦しむし、寧ろそれなりに厳しい世界に触れた方が共感を得られて落ち着くのである。
そう考えた結果その後は意気揚々とOMORIへと足を進めた。


【ネタバレ無し感想】


自分の心に与えられた、大きな傷の痛みから立ち直るには一体どうしたら良いのだろう。
傷から溢れる血の海のなかに浸り続けることは、息ができないほどの苦しみが伴うだろう。
傷ついた身体を引きずって前に進むことなんて、そう簡単に出来やしない。蹲ることしかできない。けどそれも辛い。そうなったときに行き着くのは、もしかしたら過去なのかもしれない。
まだ傷がつくまえの、愛おしくて暖かい時間。そこに戻っていつまでも続けたい。
そうして逃避することがもしかしたら1番楽な生き方なのかもしれない。

不幸では無い自分を赦せるのか。
自分が幸せになることを認められるのか。
自分なんて幸せになる権利などないと思っている人間にとって、1番の敵は自分自身なのだと思う。

生き続けていくのならいつまでも逃げてはいられない。絶対に前に進まなければならない。
そんなとき、その先に待つのが幸せでも不幸であったとしても、自分自身と向き合い、ときには闘い、受け入れ、認めてあげることが先に進む1歩となることは間違いないはずだ。

自分自身と向き合い、心の扉を開く勇気を得る。
OMORIはそんなゲームだと思った。

【世界観】
可愛らしい空間の所々に毒の滲んだような、メルヘンホラーな世界観が最高だった。
劇団イヌカレーの雰囲気を感じた。
ドッド絵が可愛い。
スイートハート城のお庭がメルヘン満載で大好きだった。
可愛いがいっぱいあるからこそ不穏な空気になったりおどろおどろしい絵が来るとゾッとしてしまう。

演出もすっごい凝ってる。これが少人数・低予算で作られたとは到底思えない。細やかなところまで作り込まれていて本編以外にも楽しいところ満載。いつまでも遊べちゃうね。

なんといってもあの色鉛筆で描いたような暖かいタッチのイラストがとっても可愛い。
アナログだからこそ心に訴えかけてくるものってあるよね。
みんなのキラキラした笑顔や楽しい思い出が生々しく伝わってきて見ていてとっても癒された。こんな画風が好みド直球なので…イラスト集とか出てるのかな。欲しい。
OMORIの苦しさや面白さってこのイラストや演出があってこそだと思う。

とにかく世界観や絵のタッチが好みな人はそれだけで買う価値が十分にあると思います。
贅沢の極みです。大好きなものを浴びれて目も心もずっと満たされてました。

【『鬱要素』について】


ストーリーの8割はほのぼので和気藹々とした会話が続くので登場人物みんなのことがだんだん好きになり、キャラクターにかなり愛着が湧く。それに加えて可愛らしいメルヘンな空間にほっこりとした温かみのあるタッチのイラストにより世界観が彩られているのでプレイしてると穏やかな気持ちになるんですよね。
でもそれが、真相を知るにつれてヒビが入り、バラバラと崩れ去っていく。
無垢なものたちが残酷に散る様を見るのは胸がきゅっと苦しくなり切なくなるような辛さがあります。

ただひたすらに絶望!残虐!といったものではないので『鬱ゲー』という感じでは無いのかなあ、というのが個人の感想。
(そもそも何を持って鬱ゲーとするのかは個人それぞれだけども…)

救いがあるのかと問われれば無い、けれども前向きではある。
でも後味はすっきりしない。でも綺麗には終わる。
清涼感ともやもやした霧が渦になってる感じ。言語化が難しい。

うつ病の私ですが正直寝込むとかしんどくて食欲が無くなるとかそういう症状は出なかった。
(※うつ病の程度は人によって様々であり何を苦しいと思うかしんどさのトリガーも人それぞれです あくまで私はという話です。)
ただomoriの気持ちや状態にはかなり高い共感を覚える。心理描写とか、世界の見え方とか。
ただ、先程言った『自分が幸せになる勇気』という点ではかなり考えさせられた。
前に進みたいとは思ってはいるんだけどその先の自分に漠然とした不安があり結局いつまでも同じ場所で蹲ってしまうところには莫大の共感を得て……
影響されて落ち込むと言うより共感を得て落ち着きました。


【以下ネタバレありの感想とか】


【ヒロ】


眉目秀麗で博識なヒロ。ベルトコンベアーまでも虜にする男。
夢世界のヒロがお料理担当(ヒーラー)だったのはサニーの記憶の中でヒロは料理上手な印象が強かったからだろう。

両想いだったであろうマリを亡くしたときの喪失感や悲しみは相当のものだっただろうに、彼は真っ直ぐに育ってる様子。
料理の道を諦めて医療の勉強に集中したのはマリの悲しみから目をそらすためだったりして。

蛇足ですがヒロ社長との戦いで小一時間は消費してしまったのでヒロの存在のありがたさを感じました。頼れるヒーラー、頼れるお兄ちゃん。

【ケル】


もしあの日ケルが玄関の扉を叩いてくれなかったらあのグッドエンディングは無かったでしょう。
サニーやオーブリーちゃんに友達の暖かさを思い出させてくれた優しい子。
ケルの元気や優しさが全てを繋いでくれている。

【オーブリーちゃん】


夢世界のオーブリーちゃんはサニーに対してかなり好意を寄せていたように見えるが現実ではどうかわからない。
現実世界ではサニーからオーブリーちゃんへ好意を抱いている描写があったため、夢世界のオーブリーちゃんのサニーに向けられた好意はサニーの都合の良い妄想の可能性がある。
現実のオーブリーちゃんがサニーに『引っ越してもたまには会いに来てね』と伝えていたことや、4年前バジルとサニーにピンクが似合うと言われ髪をピンクに染めることを決意していたことから、脈はあるかも?

{オーブリーちゃんの家庭環境について}
現実のオーブリーちゃんの家の荒れ具合を見て胸が傷んだ。家はゴミまみれで母親は何も移されてないテレビを呆然と眺めているだけ。
父親の姿は見当たらない。
マリがいた頃も家庭環境は劣悪だったのかはわからないけれど、『ピンクのレインコートを買ってもらった』という話や『髪をピンクに染めたいけれど父親がそういうのには厳しい』といった発言があったことから、昔はここまで酷くなかったのではないだろうか。
それでも前々から家に人を呼んだことは無かったらしいので4年前からそれなりに複雑だったと予想。
父親が出ていって更に荒れてしまったとかかもしれない。(髪をピンクに染める〜のくだりでオーブリーちゃんは父親とそういった会話をしていることが察せられる。レインコートはお父さんが買ってくれたのかも?)


【バジル】


バジルの優しさとは何?という話。
『穏やかで仲間想いの優しい男の子』といった印象を抱くバジルだが、真相を知ると彼に抱く印象は大きく変わってくる。

バジルはサニーによるマリの殺害をマリの首吊り自殺へと偽装する提案&手伝いをしたが、これはサニーへの優しさなのだろうか。
バジルにとってマリも大切な友達であるだろうし彼女が死んだ悲しさは相当なものだろう。
それでもサニーの殺害を隠蔽しようと動いたのは何故か。
きっとバジルは『サニーが殺した』ことよりも『マリが自殺した』ことにしたほうが、後の5人の人間関係が上手くいく、【これ以上は失わない】と考えたからだろう。
※最初バジルはサニーの殺害&隠蔽を覗き見しただけだと思ってたんだけど、
『大丈夫、きっと上手くいくよ』の発言から隠蔽工作を持ちかけたのはバジルなんだ……!と気がついた。

けれども、5人はバラバラになってしまい、サニーは引きこもりになり秘密を共有してる唯一の存在でさえも自分の元を去ってしまった。
みんなとの仲を守るためにサニーと秘密を共有し、罪を重ねたというのに。
バジルのサニーへの執着心はここから来てるのであろう。

夢世界のケル、ヒロ、オーブリーちゃんがバジルの存在を忘れていくのはサニーにとってバジルは罪を犯した自己に近い存在であり、忌避したい存在だったからだろう。
またバジルがいつもオモリと行動を共にしないのもバジルが真相を知っている人だからであると考えられる。
バジルを助けに行くことは自分の犯した罪と向き合うことでもあったのだろう。

それにしてもケルがバジルの花冠を崖から蹴落とすシーンは胸が傷んだ。花が傷んでいたとはいえ、みんなの思い出が詰まった花冠をバジルは大切にしていたはずだ。みんなの中からバジルとの思い出が薄れてきているというのをまざまざと感じたシーンだった。

{バジルの苦しみ}
サニーはマリを殺したことに対して苦しんでるのに対し、バジルは友達を失ったことに対して苦しんでると考えられる。
現実世界でサニーが引っ越すのを知ったあと部屋に引きこもったことを踏まえるとそう考えられるだろう。
バジルは友達をとても大切にしているが、それは"友達"にあたる一人一人の個人というよりは、友達と自分の間にある繋がりの方を大切に思っているのではないだろうか。
嫌な言い方をすると、『自分が1人にならないこと、置いていかれない』ことを重視しているのである。

【サニー】


聞き上手で友達の悩みもよく聞いてあげていたらしい。
サニーの人となりがいちばんよく分からない。
が、みんなから愛されていたのは十分感じられた。
きっとサニーもみんなの心を支え、暖めてあげられる存在だったのだろう。

【オモリ】


サニーが生み出したもうひとつの人格だと考えられる。
マリを自分の手で殺したことからの自己嫌悪や悲しさに耐えきれず、サニーの苦痛を軽減するためにオモリが作られた。
ちなみに"オモリ"という名前はひきこもりhikikomori→omoriかなぁ、と。公式Twitterでひきこもり と平仮名で書かれてるのをよく見たので。
日本語由来だと思うとなんだか嬉しくなるね。

サニーは空想するのが好きだったらしいので、サニーは辛い現実から逃れるためにまだ幸せだった頃の記憶に関連付けながら、彼の望む暖かな世界を作り上げたのだろう。
ここでサニーではなく"オモリ"という人物が生んだのは、自分とは別の名前を与えることで罪を犯した自分や現実を遠ざけようとしたことや、過ちを犯す前のまだ苦しみを知らない自分を作りたかったからだろう。つまり、サニーの苦しみから逃れるためにオモリは生まれたのだと考えられる。

オモリが冒険を進めることで真相をどんどん知っていくことになるのはサニーの無意識下にある自己嫌悪が夢世界のあちこちに散らばっていたからだろう。
恐らくサニーはオモリとして夢世界に逃げる反面で『罪と向き合って生きていかなければならない』という気持ちがあったのだろう。
サニールートでサニーとオモリが戦った際、コンティニューを選ばなければ飛び降り自殺ENDとなる。
サニーよりオモリが勝ったことが自害へと至ったことを踏まえると、サニーは『生きていく意志』があったように考えられる。
対するオモリは『現実からの逃避』を担う人格だったのだろう。
サニーが勝てば眠りから冷めかつての友人たちの元へ歩いていき、(グッドエンディング)
オモリが勝てば現実から逃れようと死を選ぶ。
オモリルートでも生存エンディングはあったが、サニーと戦うことはなくただ単に引越しの準備を終わらせ、引越しを終えただけなのでまたその後も相変わらず引きこもり夢世界へと逃避するのだと思う。

ここでグッドエンディングでサニーがオモリという『現実からの逃避』であり、『自分を守る存在』を倒し前に進むことが出来た理由を考えたい。
それはケルによって再び感じられた仲間への友情という力があったからだろう。
これからはオモリではなく、現実に生きる友達を支えにして生きていく。だからこそサニーは友達へ自分の罪を告白しようと決意したのだろう。

【開示することが必ずしも楽とは限らない】

ここで気になるのが犯した罪、また自己嫌悪は他人に開示することで楽になるのか?という点だ。
omoriは心の扉を開き、前に進むことに重点を置いていると思うので、その後罪が許されるのか/許されないのか はどちらでも良いのだと思う。
前に進んだあとサニーが楽になれる確証は一切ない。
もしかしたらこの先、再び修復されつつあった友情にまたヒビが入る恐れもあるし、避難され、糾弾されることもあるだろう。
サニーはそれほどのことをしたのだから。
それは本人がいちばんよくわかっていることだろうし、だからこそ別の人格を作り逃避するほどまでに苦しんでいたに違いない。

しかし、omoriが仲間に打ち明ける結末をグッドエンディングとしているのは、サニーが扉を開けて前に進むことを彼の成長だと捉えてるからだ。
引きこもり、夢世界に逃げ込むのではなく、罪ともう一度向き合い現実世界を生きていくことを良しとしているのである。たとえその先がこれ以上に辛く苦しい道になろうとも、罪を背負って生きていくべきだ、というメッセージを感じる。
またゲームの中で度々現れる『何かを待っているの?』という言葉。
これはサニーが誰かに手を差し伸べてもらうこと、誰かに打ち明ける機会を心の奥底で待っていたと考えられるだろう。

打ち明けた先、どうなるかはわからない。
もしかしたら友情にヒビが入り彼らはまたバラバラになってしまうかもしれない。
きっとサニーもその可能性を何回も何回も考えて、扉の中に引きこもったのだろう。
それでも彼は再びドアを開き、踏み出した。
私はその勇気に心からの賞賛を送りたい。

終わり

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