スイートクラウン 感想

スイートクラウンをクリアしました。個人的にかなり面白かったので感想を少しまとめて残しておこうと思います。密原と久瀬ルートの感想長め。

全体的な感想 【恋をする話というよりも、人を愛する意味を考える話】

このゲームをやってて、「人を愛すること」の根底にある我欲というものにとことん向き合えた気がする。
己の欲と正直に向き合って受け止めていく話。
全然毛色は違うけど、バリアブルバリケードをクリアした後と似た感覚になった。
なんのために恋をするのか。恋愛ってなんなのか。
なぜ人を愛するのか。なぜ他人を求めるのか。
恋愛という言葉の裏にある本質を探っていくようなお話で面白かった。
イクラをプレイしながら1番よく考えたのは、
恋愛はやがて家族愛へと変遷していくものだから、無償の愛を与え合える存在を求めて人々は他人に恋をするのかなぁ、ということでした。


密原√

2人の相性の良さ

凸凹が綺麗にハマった2人だなあ、って。
密原のありのままの姿を好きだと言ってくれた柘榴ちゃんと、柘榴ちゃんの『自分本位で生きたい』という許されないだろうと我慢し続けてきた欲を肯定して背中を押してくれた密原。
序盤は自分の思い通りに動かしたい男と主体性の無さすぎる女で相性良いじゃん!って思っていたけれど、最終的にはお互い『誰かにそうして欲しかった』と心の底で思い続けてたものを与えられるまでの相性の良さを見せつけてくれました。

密原の生き方、考え方


密原誠丞という男の生き方に一種の尊敬を抱く。
彼は自分が愛されるための努力を怠らず、また自分が良い思いができるような相手(環境)を的確に判断できる。ある意味とても賢い生き方をしてると思うんだよね。(樫野柘榴ちゃんを選んでしまったのは大きなミスだけれども……)

そしてこういう恋愛中毒の男のプライドをへし折るシナリオって後半はヒロインが主導権握るような展開が多い気がするんだけど、密原誠丞は最後まで自分が主導権を握り相手を振り回す気満々だったところが良かった。
『確かにお前は俺の人生を変えたけれど、だからといってお前に全て振り回されたりなんてしない。お前が与えたのは影響にすぎないし、その後のことは自分の頭で考えて決める。お前を振り回すのは俺だ!』
この発言には痺れた。自分の頭で考えて動けるっていいよね。

密原√で度々出てくる『死者ばかり美化される』という発言に深く共感した。
みんな過去や死んだ人間にばかりに勝手に幻想を抱く。勘弁して欲しいよね。
勝手に美化されて、ことあるごとに自分と比較されて自分の自尊心をずたずたにして劣等感を肥大化させてくる死者なんて捨ててしまいたいに決まってるし、密原が死んだ弟に憎しみを抱くのは当然だよなあ、って思う。
こうした密原の弟への憎悪が柘榴ちゃんの弟への義務的な執着を断ち切るきっかけになったのも含めてとっても相性の良い2人だと思う。

"鏡"

密原√は白雪姫のモチーフが綺麗に散りばめられていて感心した。特に鏡の出る場面が印象的。
唯一誇れた自分の美貌を見て、自分存在意義を確かめる為の鏡。
そして同時に死んだ水子の影を浮かび上がらせる鏡。
そして柘榴ちゃんには自分がこれまでやってきた『相手をその気にさせる』という行動を鏡合わせにして返され、それがきっかけでプライドをずたずたにされ仮面が剥がれ落ちる。
密原に多大な影響を与える場面と"鏡"がいつも繋がっていたのが良いな〜!って思いました。

密原√、個人的にかなり面白かった。
密原の素の顔を肯定してあげるところがゴールじゃなくて、柘榴ちゃんを本当の気持ちと向きあわせるところまでを含めて山場としてるのが面白かった。
柘榴ちゃんが行方不明の弟に縋り付く理由は『どこかで生きている』と信じれば自分の罪悪感が軽減されるからであり、弟を愛しているからじゃなくて、自分の気持ちが楽になりたいっていう自己愛。
この自己愛は決して悪いことじゃない。自分本位で生きて何が悪い?自分がいちばんかわいいに決まってるでしょ!
とここまで言い切ったところに爽快感を感じました。

久瀬√

彼はいつでも真っ直ぐでポジティブでかっこよかったね。彼が純粋だからこそその悲しい境遇に胸が抉られたけれど……
久瀬くんはどのルートでも柘榴ちゃんの味方をして寄り添ってくれる良心だったので愛着が湧いてる。

死んだ側の人間の辛さ

密原√で遺された側のつらさを聞いた後に犠牲になった側の苦悩を聞く私の気持ちにもなって欲しい。心がつぶされてどうにかなってしまいそうで休憩何度も挟みながらプレイした。
あんだけ恨まれていた弟がまさか久瀬くんだったなんて。
さらに自分の身を犠牲にしてまでわざわざ密原を生かしてやった言わば「命の恩人」なわけで。
彼も彼の人生を生きたかっただろうに助けた人間にはこんなに恨まれてしまっている久瀬くんが可哀想で仕方なかった。
でも密原があそこまで弟を恨んでしまう気持ちもわかるし……でも久瀬くんからしたらこんな悲しいことって……とまさに板挟みのような気持ちに陥って頭を抱えた。
どんな立場の人間も必ず生きてく上では苦しみが伴うものなんだということを再認識した。

いつでも「自分がそうしたいから」と言える人

私は久瀬蒼馬くんを尊敬してるんだけども、それは、彼は行動の理由をいつでも「自分がそうしたいからそうする」と主語を己にしているところがかっこいいから。
久瀬くんの生前の行動は客観的に見て自己犠牲ととれると思うのだけれど、当人は「自分がそうしたいからそうした」という態度を貫いていて。
密原のためじゃなくてあくまで自分のためにやった行動なのだと胸を張ってるところに感動しました。

これは久瀬くんだけじゃなくスイートクラウンの登場人物全体に言えることなんだけれど、『自己犠牲』というのを気持ち悪い!って真っ向から否定するし、"他人のため"とか言うけれど、その行動は結局"自分がやりたいと思ったからした行動"だし、それはつまり"自分のため"に動いてることと変わらないのでは?と必ず中心に自分を置く考え方をしている。私は恩着せがましくない考え方をとてもかっこいいと思う。

『他人のためだ』とか言って責任を全て他人に委ねて、自分は流されてしまった、犠牲になってあげた、と可哀想な顔をするのって偽善者ぶっていて厚かましい。
自分がそうしたいからそうしたんだと胸を張って言える人は責任をちゃんと自分が背負って進むことができるので良い意味で他者に依存しない。とても良い生き方だと思う。
今後私も人生の選択をするとき、必ず主語を自分にして考えられる人になりたいと思った。
人生の教訓を得た。

ピュアすぎる恋

純粋な恋心を前にその美しさに涙が出そうになった。

柘榴ちゃんと久瀬くんがお互いを意識し始めた頃、これまで普通にしていた『手を繋ぐこと』になんだか違和感を感じ始める。一体これまでどんな風に繋いでいたのか、相手を意識し始めた今だからこそ妙に気になってしまう。
これまで当たり前にしていた些細なことにまで気を配ってしまうほどドキドキしてるピュアな恋があまりにも可愛い。

柘榴ちゃんへの恋心が加速する度にどんどん欲が深くなっていって、欲が募る度に人間じゃない自分の身体を嘆く思いも強くなっていく久瀬くんの悩ましい姿がとても良かった。

日之世、古橋√

日之世の言っていたことは常に的を得ていた。
初見のやばさはダントツだけど、蓋を開けるとこの人がいちばんとっつきやすいような気もする。
コミュニケーション能力も案外高いし、結構優しいし……。
古橋も序盤の愛情表現は不器用だったとはいえ、かなり面倒見の良い優しい人だった。
序盤は怪しいけれど知れば知るほど安心感を抱く2人。


真相√

プレイ序盤からずっとずっと真井が気になってたのでついに真相√に踏み込めたときは狂喜乱舞してたんだけれど、クリア後虚空をひたすら眺めることになった。
真相ルートに入る時に後悔しない?って注意書きが何度も出ていたけれど正直後悔してるかもしれない。
私は『真井知己』という人間が好きだったので、彼を彼たらしめる人格が消失してしまうことが悲しかった。
そして真井知己の抱いた淡い恋心って結局柘榴ちゃんに伝えることも無く叶うことも無く消されてしまったということがとても悲しくてたまらない。

柘榴ちゃんの「理想の弟像」に1番近かったのが真井知己だった、ていうのが真井知己にとっても知也にとっても皮肉な話で。
柘榴ちゃんが欲しかったのは無償の愛で家族愛に近い愛情だったから弟への執着心も尋常じゃなかったし、いざ弟が恋心を向けてきた時に拒否してしまったんだと思う。
つまり弟に似ているから好感を持たれていた真井知己も実の弟である樫野知也のどちらも柘榴ちゃんに抱いた恋心は報われないっていう。
柘榴ちゃんが1番求めているものが『家族愛』である限りきっと永遠に2人の思いは届かないでしょう。

真相√で愛に敗北した恋をまざまざと見せつけられ、頭を強く打たれたような感覚に陥った。

ただ終盤の、『貴方に頼って……依存して……あなたを壊して……ごめんなさい……』のセリフで脳汁吹き出しながら、このゲーム買ってよかった!って手を叩きました。最高のセリフだ!

私の好きな男は消失しましたが、スイートクラウンという物語はとても面白かったです。
また機会があればTAKUYOの他のゲームをやろうと思います。

終わり


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